Anglesey Abbey ガーデンデザイナー 麻生恵

Anglesey Abbey

イギリスのケンブリッジに冬の庭で有名な Anglesey Abbey があります。イギリスの庭と言うのは春の球根の季節にオープンし、秋で閉めてしまうものです。冬もオープンしている庭と言うのは本当に限られているのです。冬の庭で有名で、イギリスの厳冬下でも駐車場は車でいっぱいと聞いて、どうしても見たい庭のひとつでした。この庭を真冬に訪れた時には本当に驚きました。

Anglesey Abbey ガーデンデザイナー 麻生恵

これは黄色く色づいた低木の中に立つチベット桜。冬、黄色く色づいた低木の中に、そのエナメルのような光沢の赤茶の幹が強烈なコントラストを描くようデザインされています。周りが黄色ではなく緑の葉で、チベット桜も緑の葉に覆われていたら、こんなに強烈なコントラストは見えてきません。冬がこの場所が本当の美しさを発揮する時なのです。冬にしか見られない景色なのです。

Anglesey Abbey ガーデンデザイナー 麻生恵

チベット桜の幹のエナメルのようなツヤ、茶色を帯びた赤い色、現代アートのような横縞模様、そしてその太古の昔を思わせるようなダイナミックな樹形。それが黄色く色づいた低木の中に大きく枝を広げて堂々と立っている姿は、冬の冷たい凛とした空気の中に圧倒的な存在感です。緑の中に埋もれる季節ではなく、周りが枯れた季節だからこそ見えてくる景色です。

Anglesey Abbey ガーデンデザイナー 麻生恵

これは、樹皮が紙のようにめくれてくるカエデ。一般名をPaperbark Maple、紙の樹皮のカエデ、と言います。この樹は、その紙のように剥がれる樹皮の美しさで、よくイギリスの庭に植えられています。Anglesey Abbey では、この茶色い紙のように剥がれた樹皮の幹を、常緑の低木の中に植えています。株元の白い斑の入った葉の低木はマサキです。花の季節には気づかない樹木の幹の美しさ、それが見えてくる冬の景色、イギリスのその植物に対する洞察力の深さとデザイン力に溜息が出ます。

Anglesey Abbey ガーデンデザイナー 麻生恵

これは一般名 Coral bark willow (サンゴ色の樹皮のヤナギ)です。この景色を見た時には本当に驚き、暫くこれがヤナギだと言う事が信じられませんでした。このヤナギはある時期に株元まで強剪定することにより、このようなサンゴ色のシュートが沢山伸び、その形のまま冬を越します。イギリスに於ける、植物に対する科学的な洞察力の深さ、それを活かすデザイン力と創造力。余りにも自然が豊かな日本では気づきにくいデザインと言う切り口です。

Anglesey Abbey ガーデンデザイナー 麻生恵

これが真冬のイギリスの庭だと信じられるでしょうか。冬に咲くガマズミと斑入りマサキ、これがマイナスになる厳冬期のイギリス庭だろうか、と目を疑います。これもまた冬をデザインした庭なのです。

ガーデンデザイナー 麻生 恵