日本原産のギボウシが世界で一番完璧な美しい多年草だとイギリスで習った、とあっちこっちで言い続けています。日本の日陰がちな玄関にダイナミックな大きな鉢を置き、そこに造形的なフォルムのギボウシを植えよう、とも言い続けています。
でも、そう言うと必ずこう質問されます。
ギボウシは冬に地上部がなくなりますね。冬の間そこに何を植えればいいですか。
私の答はいつも同じです。何も植えなくていい。冬には冬にしか見られない景色があります。春から秋には他の植物に目を奪われて見えなかった景色が、冬だからこそ見えてくるのです。地上部の無くなった多年草の後ろに冬にしか見られない景色がデザインしてあればいいのです。
日本の都会の小さな庭でデザインする冬の景色。この樹皮がはがれている美しい幹はカシワバアジサイ。ギボウシと同様、半日蔭の庭を好むのでギボウシの後ろに植えておきます。春から秋は、切れ込みの深い大きな美しい葉や、円錐形にまとまって咲く美しい白い花に目がいくカシワバアジサイ。そのアジサイが葉を落とし幹だけになった冬、まるで紙のように剥がれた樹皮の幹が見えてくるのです。
私はギボウシの後ろにシマススキを植えるのが好きです。ススキは晩秋に枯れますが、その枯れた姿も美しく、私は冬中その姿を残します。美しく枯れたススキを景色に使うのは簡単、目立たないように支柱を立てておく事だけです。枯れたススキは冬中アートのように庭に立ち続けます。春になると株元から瑞々しい新緑が出てくるので、そうなったら自際まで刈り込んで、冬の景色は春へとバトンタッチします。
燃えるようなオレンジ色の剣のような葉、これは枯れたアヤメの葉です。これもギボウシの後ろに植えて、冬の景色として楽しみます。あの古代紫の気品のある花を咲かせるアヤメ、その冬の姿がこの燃えるようなオレンジ色。何とも素敵な植物です。
冬には冬にしか見られない美しい景色があります。それを最初からデザインしておきます。ギボウシの地上部が枯れた時、緑の季節には目に入らなかった冬の美しさに気づく、そう言うデザインをしたいと私は思っています。
ガーデンデザイナー 麻生 恵