都市近郊には山を切り開いて造成した土地に家を建てている事がよくあるものです。両親が50年前に移り住んだこの土地も然り。西側の隣家との境界線は大谷石とブロックの土留めで、高さが2m以上あります。
この、山を切り開いて作った昔の造成地の宿命である、見苦しい土留めの壁をどう隠すか、は私にとって大事なデザインポイントでした。こう言う場合、私は植物で解決するのが好きです。ビスや釘の打てない所でも、植物を使えば色々な解決策があるものです。
私はこの2m以上の高さの斜めの壁を、直線的に刈り込んだシャープな緑の壁で隠し、その壁の前に造形的でダイナミックな植物を植えて、コントラストを出したいと考えました。
シャープな緑の壁(グリーンヘッジ)を作る時に私が選ぶのは、1年中緑で葉が小さい樹木です。緑の壁には冬は庭の構造物として建築的な存在であってほしいし、春から秋は自己主張せず背景となって他の植物の引立て役になってほしいのです。私が選んだのは昔から日本で生垣として使われてきたツゲ。
緑のシャープな壁の前に、造形的でダイナミックなフォルムの多年草を植える。
多年草の一番候補はアカンサスモリス。ギリシャのコリント模様の原型になった、光沢のある緑の大きく切れ込みの入った造形的な葉。ゆったりとしたその葉が重なり合い、その中央から初夏に1.5mほどにまっすぐに穂のように上がる白と紫の花。この大型多年草を植える事にしました。
今、緑のシャープなツゲの壁の前に、造形的な葉を持つダイナミックなフォルムの多年草アカンサスモリスが、大きく育って一列に並んでいます。その手前には緑に抱かれるようにデザインして作った駐車場があります。その駐車場の手前に、道路からの心理的バリアとして、別の種類のツゲで作った円錐のトピアリーが3個並んでいます。小さな苗木だったツゲは、10年の歳月で彫刻のようになりました。
この直線的な緑の壁と、その前に植えられた造形的なフォルムの植物を見る時、それが隣の大谷石とブロックの壁隠しだと、気づく人はありません。問題を解決する手段でありながら、それが、魅せ場に変わる、それが私の好きなデザインです。
ガーデンデザイナー 麻生 恵