あれは何の木ですか? とよく聞かれる我が家の庭木。
夏ミカンです、と答えると皆さんビックリなさいます。夏ミカンの木と言えば、陽当たりのいい南斜面で暴れている姿しか目に浮かびませんね。
イギリスに住んでいた時、クリスマス休暇をスペインの南端、マルベーリャで過ごした事があります。クリスマスと言えばイギリスは午後3時半には真っ暗なのに、マルベーリャは光に溢れ、街路樹のオレンジの木が道の両側に続いていました。南の国の明るい光と大きな丸いオレンジ色の果実、真っ暗で寒い国のイギリス人が憧れる筈です。暗い国でモグラのような生活をしていた私達にとって、南スペインの冬のオレンジの街路樹は忘れられない光景となりました。
我が家には両親が植えた、だらしなくフェンスの上にしなだれていた夏ミカンがありました。その夏ミカンを私はあのスペインのオレンジの木にしたい、と思いました。その頃仲良しだった植木屋さんに、スペインのオレンジの木の写真を見せて、数年かけてこう言う形に作ってほしい、と伝えました。植木屋のオヤジさんは「へっ?スペイン?オレンジ?」と面食らっていましたが、好奇心の強い人で、金属パイプを持ってきて、しなだれた木を相当強い力で立ち上げてくれました。パイプに茶色の塗料も塗ってくれました。木と言うのは強いものです。あんなにしなだれていた夏ミカンも5年ほどでいい形になり、10年で金属パイプも取れました。
庭向きに形よく小さめに剪定していますが、それでも大きな夏ミカンが30個以上も取れます。夏ミカンは3月に収穫します。晩秋から冬の間ずっとオレンジ色の丸い果実をつけた夏ミカンは、冬の庭を明るく彩ってくれます。冬の庭にあって、まるでクリスマスツリーのようです。
植木屋さんに剪定を頼む時は、私は目に見える形で、数字を使って説明します。写真を見せるか絵を描くか、そして、全体の葉を30%落としてほしい、とか50%落としてほしい、と具体的に言います。目に見えないイメージを伝えると言うのは大変難しいものです。よく、ナチュラルな形に剪定してほしいと植木屋さんに言ったのに、和風に刈り込まれてしまった、と言う声を聞きます。その方のナチュラルと植木屋さんのナチュラルは同じではないのです。植木屋さんはよく、モッコクはモッコクらしく、キンモクセイはキンモクセイらしく、と言うような言い方をします。日本の伝統的な剪定を学んだ植木屋さんには、植木屋さんとしてのナチュラルがあるのです。イメージを伝える時には、写真を見せる、絵を描く、数字で示す、これが大事です。
イギリスの英国王立園芸協会(RHS)の庭 Wisley Garden の中にレストランがあります。その権威あるRHSの、皆が集まるレストランの入口に、日本のミカンが鉢植えになって置かれています。暗く寒い冬が長く続くイギリスではミカンを地植えする事はできません。冬は温室で育てなければなりません。イギリスが鉢植えにしてしか育てる事のできない特別な、ミカンも夏ミカンも我が家の庭では地植え、手間いらずです。
ガーデンデザイナー 麻生 恵