オランジェリーと言うのは、中世に貴族や領主の大邸宅の庭の中に建てられた、オレンジや地中海の柑橘類を寒い季節の間育てる為の特別な建物です。南側に大きくガラス窓を取り、冬は暖房をし、大鉢など動かせる容器に果樹を植えて、その特別な温室の中で育てたのです。短い夏以外は暗く寒いイギリスで、オレンジや地中海の果樹を育てる、と言うのは特別な人の富の象徴でした。
今、庭園のオランジェリーはレストランやカフェとして使われている事が多いのですが、個人で借り切ってパーティーに使ったり結婚式に使う事もできます。ロンドンのキューガーデンのオランジェリーはカジュアルなレストランとして一般に使われていますし、ダイアナ妃やキャサリン妃の住居であるケンジントン宮殿のあるケンジントンガーデンのオランジェリーもアフタヌーンティーのできるカフェとして一般客が利用する事ができます。
この写真はサマーセットにあるヘスタークームガーデン(Hestercome Gardens)で出会った、オランジェリーでの結婚式です。へスタークームガーデンはイングリッシュガーデンの祖とも言える、ガートルード ジーコー (Gertrude Jekyll)のデザインした多年草の庭がオリジナルの植栽計画で残っている事でも有名です。私が訪ねた日は雨でしたが、オランジェリーで結婚式があると言うので、何時間も待機して撮った花嫁と花嫁の父、そしてブライズメイド、特別なワンショットとなりました。
貴族や領主の富の象徴であった、柑橘類を育てる為の特別な建物 オランジェリー。その中で特別に育てられたミカンやレモン。そのイギリス人が中世の頃から憧れ続けるミカンの樹が私の庭にはあります。クリスマスの頃に鮮やかなオレンジ色の果実をいっぱいにつけ、温州ミカンはお正月の頃に食べごろに、そして夏ミカンはそれ以降も冬の間中ずっとオレンジ色の大きな果実が庭のアクセントとなり、3月に収穫します。我が家ではさわやかな香りいっぱいの夏ミカンゼリーを作りますが、マーマレードやオレンジピール作りに待っている友人達にも送ります。
私達は貴族でも富豪領主でもないけれど、オレンジの樹を庭に植えられるのです。
ガーデンデザイナー 麻生 恵