重要なのは冬の庭

重要なのは冬の庭

庭をデザインする上で一番重要なのは、骨格(bone structure)をデザインする事だ。
骨格をデザインすると言う事は、冬の庭をデザインする事だ。
花も色もない冬に、庭はその真価を問われる。
本当に美しい庭は冬も美しい。
冬に美しい庭に、花や色が加わればもっと美しい。
君達がデザインするのは冬の庭=骨格である。

これはイギリスの美術学校で厳しく叩き込まれたガーデンデザインの基軸です。
いい庭かどうかは白黒の写真を撮ってみれば判る、とも言われました。ともすればガーデンデザインと言うのは花の世界と思われがちですが、本当のガーデンデザインとは庭の骨格をデザインする事、すなわち色のない冬の庭をデザインする事なのです。

観光客が見るのは6月から8月のたった3か月のイギリスの庭。長い冬から目覚め、全ての命が躍動する季節。庭は美しい花々で溢れ、イギリスの庭に憧れの溜息をつく人は多いけれど、イギリスに暮らす人々には残り9か月の暮らしがあります。庭は観光客の為のものではなく、そこに暮らす人々のものです。

重要なのは冬の庭

これはコッツウォールで撮った、真冬のマナーハウスの庭です。この幅1m以上もある建築物とも言える壁はイチイの木です。向こう側の壁が敷地の境界線で、入口に立つ2本の柱だけが古い石、あとは全てイチイの木で作られた生垣です。手前の壁の上に建つ球体もイチイを刈り込んだもの。向こうの石の柱の上の球に連動させてデザインされているのです。まるで石の建築物のようにさえ見える向こう側のイチイの壁と手前側のイチイの壁。その向こうに広がるコッツウォール丘陵と葉を落とした木々のシルエットが一体となって、全てがひとつの景色となっているのです。

重要なのは冬の庭

夏にもここを訪れる機会がありました。その時はバラが溢れ咲いていましたが、私はあの真冬の霜の下りた静寂の中の景色が忘れられません。

ガーデンデザイナー 麻生 恵